勝負は勝つこともあれば負けることもある。サッカーは引き分けにも大きなウエートがある。27試合を戦って9勝9分け9敗という栃木SCの数字は、中庸を重んじる栃木県民性を表しているようにも見える。所属40選手のうち栃木県出身者は13人なので構成比率は高くないが、サッカーは地域性(代表チームにおける国民性)が出るスポーツと言われるから「栃木のチームらしい」と見ても中(あた)らずといえども遠からず。これまでも「相手に合わせてしまう」とよく言われていた。強い相手と堂々と渡り合ったかと思えば弱い相手を持て余してしまう。イニシアチブが低いのかなぁ。一対一で勝負しない、リスクを負ってでも突っ込んで行かない、強引にでもシュートを打たない…。自分から何かを主張したり行動を起こしたりしない傾向の県民性と無関係ではないかもしれない。日常や個人のレベルなら構わないが、今や多くのサポーターやファンやスポンサーの支持と期待を背負う栃木SCに、そんなヤワな姿勢は許されない。
後期第10節のTDK戦を引き分けて、柱谷監督は報道陣の質問に答える中で「メンバーを固定すると緩くなってしまう選手がいる」と嘆いた。「固定されると責任が出て、自分がチームを背負っていくんだという思いを持ちながらプレーしなければならないんです」と、J1を目指して戦ったJ2の山形や京都の監督時代を振り返り「イタリアのACミランを例に取って、勝たなければならない責任感…それはメンタル的な強さのことですけど…を教え込んだんです。ウチのチーム(栃木SC)はメンバーを固定するとメンタル的に落ちてくるんですねぇ」とプロ意識の低さを指摘する。一流を重んじる京都人の柱谷監督は「中途半端なメンタルの選手は使えないですよ」と言った。
ピッチレベルで言えば、相手のプレッシャーがかかっていないフリーな状態なのにイージーなキックミスやパスミス、トラップミスが多過ぎる。これではサッカーにならない。気温は21度。芝も良かった。昼練習に移行して4か月。もう言い訳は通らない。単純ミスに加えて判断の遅れ、思い切りの悪さ、連係の不足…。勝ち点3を計算していたゲームで勝ち点2を失った原因だ。
ベンチ入りの選手も含めて、誰もが必死に戦っているのは分かるが、今の栃木SCには何かが足りない。柱谷監督は言う。「昇格争いは厳しいですよ。チーム戦術や個人の技術だけではなく、精神的にタフでないとダメ」。それが、精神面を言う以前に技術が伴っていない現実もあるのだ。そのへんが勝てない理由なのだろうか。蛇足ながら一つ言いたいのは、ラストパスの供給元が不在だということ。FW陣の不甲斐なさが槍玉に挙がるが、決定的なラストパスの頻度が高まれば、今のFWたちは期待に応えられるはずだ。個人技で打開できる選手は「ないものねだり」だから、前線を活性化し生かせるコンダクターが必要だ。緑のピッチに白く糸を引くようなグラウンダーのスルーパスを出せる選手。試合を決めるパサーは誰だ? 今季が無理でも、来季構想に入れてほしい。
ところで、前回コラムにTDKの同点シーンを書き忘れた。長距離ドライブと勝ち点2を失ったショックで頭が混乱していた。55分、ボールを回されて左寄りからMF池田に右足で決められた。